八月のくず-b

平山夢明「八月のくず」を読んだのでネタバレありのレビュー2

皆さんこんにちはmasa BLIK ito(まさぶりっくいとう)です。(@masabliks

前回に引き続き平山夢明「八月のくず」レビューをしていきます。

平山作品の暴力性やグロ描写などのアクの強さを薄めてとっつきやすくなっている作品なので入りとしておすすめしやすいです。

目次

八月のくず

下のように10の短編からなる作品です。

  • 八月のくず
  • いつか聴こえなくなる唄
  • 幻画の女
  • 餌江。は怪談
  • 祈り
  • 箸魔
  • ふじみのちょんぼ
  • ≒0.04%
  • あるグレートマザーの告白
  • 裏キオスクストック発、最終便

前回は「餌江。は怪談」まで書いたのでその続きから。

前回も書いたように僕が思う平山作品の特徴として

  • 清々しいまでのクズ人間
  • 暴力とグロ描写
  • ひとさじの救い
  • 気になるタイトル

があるのですが、後半もそのエッセンスは確実にありますね。

祈り

3人暮らしだった家族の話で、一人娘が運転中に交通事故で亡くなってしまう話。

当て逃げの後泥酔状態で発見された運転手が裁判で「飲酒運転」とは判定されなかったことをきっかけに妻が壊れていくさまを子細に綴られていきます。

母親は娘が現世に帰ってこれないのなら、霊的な要素でも感じたいと降霊術などの本を買い漁り、娘の服を着て髪型も同じくして憑坐(よりまし)として一体化しようとするさまが不気味。

そのうち娘が乗っていた車をスクラップから買い戻し、無理やり部屋の中に入れたりもします。

このあたり、平山夢明の「或るろくでなしの死」に収録されている「或る愛情の死」も事故に巻き込まれた障がいのある息子と壊れていく母親という部分で通じるものがあります。

男親はどちらも主体性がなく、振り回されていく側なのですが、母親が狂ってしまった原因が隣人の作為的な部分もあったことを知り、絶望していくことになります。

「空虚な社会人として終えるか、充実した狂人として終えるか……」

という文言に、考え方によっては初めて主体的に「娘と妻を失ったこと」に向き合おうとしているようにも捉えられます。

平山作品では隣人の行動によってめちゃくちゃにされる人生が、ほとんど「災害」のような描き方をされているのも印象的で、「東京伝説シリーズ」の作品から脈々と続く共通概念だと思います。

抗うことができない圧倒的な暴力性ですね。

箸魔

警察官2人が探し求めていた誘拐殺人犯が食人目的での犯行で、次第に警察官の娘に罠を仕掛けていたことが判明していき…という話。

食にかける異常な執念がやがて、「自分の子供の肉を食わざるをえない状況にした後、殺した人の骨を使った箸」に出会い、さらなる狂気をはらんだ食人に手を出した男。

その男を追っていた2人の刑事は、娘や家族に罠を仕掛けられていたことに徐々に気づいていきます。

「気づいてしまった不幸」と「欲望の対象にされてしまった不幸」どちらが堪えるか、なかなかきつい話です。

食人系の話は平山作品、「独白するユニバーサル横メルカトル」の「Ωの聖餐」で登場人物Ωが脳を食べると人の記憶や思考回路を瞬時に理解できていく部分や「他人事」収録、「たったひとくちで…」のウミガメのスープをさらにドロドロに展開していく短編なんかでも楽しめます。

こういう欲望に対して人間がどういうふうに振り回されるのかも、よくテーマとして出てきますね。

ふじみのちょんぼ

ヤクザの地下格闘技施設で「ふじみのちょんぼ」と呼ばれた男が「おっちゃん」のためにぼろぼろになりながらも闘う話。

ちょんぼは不思議な絵本の世界に入り込こみ、普通だったら重態とも言えるけがを癒やすことができるという能力があります。

施設で別れた「サヲ」との淡くやさしい生活を送りますが、最後は破滅に突き進むちょんぼ。

このサヲが今回の話での「抗うことができない災害」に近い役割で、「恩返し」とか言いながらちょんぼにとっては最悪な選択をします。

「善意の白痴」的なキャラクターは今までの平山作品ではいそうでいなかったキャラかも。

≒0.04%

薬物中毒の息子が父親に金を借りようと訪れたところ、誤って殺してしまうところから物語がスタート。

金目の物を探そうとしていたところ、箱の中に入った「灰」を見つけてストーリーが展開しだします。

父親の書棚のラインナップから「吸血鬼」的なものにまつわるものと類推し、薬物中毒者らしく(?)これを体内に入れることで全能感を得ます。

ラストは結構お決まりパターンではあるのですが、その過程を楽しむタイプの話なので、特に気になりませんでした。

こういうショートの話、特におすすめするわけではないのですが、力を抜いて楽しめるので自分は好きです。

あるグレートマザーの告白

自分の娘に淫売をさせて自分の食い扶持を稼がせる母親、その娘、そしてその息子の話。

娘の父親も例にもれずクズ人間です。

娘が基本的な話の中心となり、彼女がその後ある怪物のグレートマザーになります。

世間を呪った娘は世間への復讐からか、息子を良心を持たない「化け物」に育てるための英才教育を施します。

その様子がこれまたエグめなのですが、終始育ての親である「娘」には悲壮感があまりなく強かに生きていく様子が描かれています。

今回の平山夢明はそんな登場人物が多い印象です。

裏キオスクストック発、最終便

最初SF系のような作りで、地球に似た星の話と思いきや、狂人の主観だったという話。

平山夢明短編集では最後の作品は結構「ハッ」とさせるものが多い印象なのですが、この「裏キオスクストック発、最終便」はわりかしライトでストレートめな作品という印象。

平山夢明作品はネタバレを読んでても登場人物の会話や関係性で何度でも楽しめるし、ネタバレやトリックがもっとも重要な要素でないのも小粋だなーと思います。

平山夢明「八月のくず」を読んだのでネタバレありのレビュー2 まとめ

結構長くなってしまいましたが、やっぱり平山作品の重さを定期的に接種したいな~と思う自分がいます。

ホラー映画やメタルを聴きたくなる心理に似ているのかも。

とは言え入りやすい作品であるのは確かだと思うので、気になっていたらぜひ。

その1はこちら!

八月のくず-a
平山夢明「八月のくず」を読んだのでネタバレありのレビュー1

平山夢明「八月のくず」を読んだので読書感想文を。
平山作品としてはポップさもあるので手を伸ばしやすい作品かも
要素である

清々しいまでのクズ人間
暴力とグロ描写
ひとさじの救い
気になるタイトル

は健在です

続きを見る

-アート・映画・本
-