皆さんこんにちは、masa BLIK ito(まさぶりっくいとう)です。(@masabliks)
Guitar World誌の「Guitarist of the Year」を受賞したギタリスト、と聞くと、ゴリゴリのヴィンテージ機材を持った大御所を想像しがちですが、Igor Paspalj(イゴール・パスパル)はまるで違います。
セルビア出身のこの人、メインの音作りをソフトウェアで完結させているんです。Universal Audio Apollo Twinにプラグインアンプシム、ライブのホスティングにGig Performer。
テクニカル・フュージョンの最高峰がソフトウェアベースのリグでやっているという事実は、結構衝撃的ですよね。
今回はそんなIgorの機材システムを掘り下げていこうと思います。
目次
Igor Paspalj 使用機材一覧
ギター
- Inspire IRIS(シグネチャー)
- Charvel Guthrie Govan USA Signature HSH
- PRS S2 McCarty 594
- Fender YJM Stratocaster
- Pearson Instruments Hyper B Special
- 10s Custom LP Style Singlecut
オーディオインターフェース
- Universal Audio Apollo Twin
アンプシミュレーター / ソフトウェア
- Scuffham Amps S-Gear 3
- IK Multimedia TONEX
- Gig Performer(ライブ用ホスティング)
- UAD 610B / Neve 1073 プリアンププラグイン
ハードウェアモデラー
- Kemper Profiling Amplifier(過去使用 / 一部現在も)
- Fractal Audio Axe-Fx II(過去使用)
弦
- Elixir OptiWeb .009-.042
Igorのサウンド哲学:「最良の結果を出す道具を使う。ブランドは関係ない」
彼の機材への向き合い方で一番面白いのは、ブランドに対する忠誠心がゼロなところです。
自分のシグネチャーモデル(Inspire IRIS)を持っていながら、Charvel Guthrie GovanやPRSも普通に弾く。「このギターのほうが、この曲のこの表現に合うから」以外の理由でギターを選ばない。
レヴューアーとしてもDonnerなどの低価格帯のギターを頻繁にチャンネルで取り上げて、「これで十分だよ」という情報を本気で発信している。
Guitarist of the Yearが「3万円のギターでも十分いい音出るよ」と言うのは、ある意味で自分の権威性を削るようなことなんですが、そこに一切躊躇がないのが彼のスタンスですね。
機材のプラグマティズムがここまで徹底された人は珍しいと思います。
メインギター:バラバラに見えて一本筋の通ったラインナップ
さて掘り下げていってみましょー。
Inspire IRIS(シグネチャーモデル)
Inspireブランドと共同設計した自身の名前を冠したギター。
彼のプレイスタイルに合わせた薄めのネックプロファイルと、ヴァーサタイルなピックアップ構成で、速く正確なパッセージから、クリーンのコードワークまでカバーする設計。
シグネチャーモデルを「自分専用の最適化された道具」として使いつつ、それに固執しないのが彼流です。
Charvel Guthrie Govan USA Signature HSH
Guthrie Govanのシグネチャーがなぜ彼のラインナップにいるかというと、HSHレイアウトの汎用性が理由です。
ハム+シングル+ハムで、クリーンからハイゲインまで一本でカバーできる。フュージョン系ギタリストが求める「一本でなんでもやれる」を体現したギターですね。
ステンレスフレットのすべすべした弾き心地もGuthrie Govanモデルの長所で、テクニカルなレガートフレーズが気持ちよく決まります。
PRS S2 McCarty 594
GWの受賞に伴いPRSから贈られた一本。
McCarty 594はPRSの中でもヴィンテージ志向のモデルで、太めのネックとクリーンの艶がジャジーな文脈で生きてくる。
「テクニカルな速弾きギタリスト」のイメージとは全く違う、渋いクリーンの美しさを出す場面でこのギターが登場します。
ソフトウェアリグ:プロの音をノートPC一台で
Universal Audio Apollo Twin + UADプラグイン
彼のシステムの中枢です。
Apollo TwinはDSP内蔵のオーディオインターフェースで、UADプラグインをリアルタイムで動作させられるのが最大の強み。610Bチューブプリアンプや、Neve 1073のEQプラグインをほぼゼロレイテンシーで使えるので、入り口の段階で音にアナログ的な温かみを加えられる。
これがS-GearやTONEXに入る前の「プリ処理」として効いていて、デジタルアンプシムだけでは出にくい質感を補っているわけです。
Scuffham Amps S-Gear 3
長年彼のメインアンプシムとして使われてきたソフトウェア。
S-Gearの何がいいかというと、ピッキングに対する反応の自然さです。多くのアンプシムは「弾いた瞬間」と「手を離した瞬間」のレスポンスがデジタル的(階段状に変化する感じ)ですが、S-Gearはこの遷移が滑らかで、チューブアンプを弾いているときの「ふわっ」とした感覚に近い。
知名度はNeural DSPやKemperと比べて低いですが、使ってみた人の評価がやたら高い、いわゆる「知る人ぞ知る」系のソフトです。
IK Multimedia TONEX
こちらはAIベースのマシンラーニングモデリング。
実機のアンプを録音してAIに学習させ、その音響特性をソフトウェア上で再現するという仕組み。S-Gearが「アンプの一般モデリング」なら、TONEXは「特定の個体のクローン作成」に近い。
特定のチューブアンプの音が欲しいときはTONEX、汎用的な音作りにはS-Gearという使い分けをしているそうです。
Deskew Technologies Gig Performer
ライブでプラグインベースのシステムを安定動作させるための専用ホスティングソフトウェア。
DAWよりも軽量で安定性が高く、VSTやAUプラグインを楽曲ごとのプリセットで瞬時に切り替えられる。PCベースのライブリグを組む人にとっては、このソフトの存在を知っているかどうかで安心感が全く変わる。
Igorがこのソフトをかなり推していて、YouTubeでも使い方を解説しています。
弦:Elixir OptiWeb
弦はElixir OptiWebの.009-.042。
コーティング弦の中でもOptiWebは「生弦に最も近い弾き心地」を謳っているシリーズで、実際に触った感触もつるつるしすぎずいい感じです。コーティング弦にありがちな「ぬるっとした感じ」が少なくて、指先のフィーリングを大事にするプレイヤーに向いている。
ライフの長さもコーティング弦の強みで、ツアー中の弦交換頻度を減らせるのも実際の運用上大きなメリットですね。
Igor Paspalジの機材まとめ
Igorの機材システムを俯瞰すると、「プロがこのクオリティの音を、ソフトウェアだけで出してしまうのか」という驚きがあります。
高級なアンプヘッドを何台も並べるスタイルとは真逆で、ノートPCとApollo Twinだけで世界トップレベルの音を出してしまう。
ブランドに固執しない。予算で妥協しない代わりに、見栄にも金を使わない。必要な音が出るなら3万円のギターでも使う。
ある意味で最もモダンな、そして最もインテリジェントな機材アプローチかもしれません。
